***あ れいにー でい***




雨が、雨が、しとしとと降る。
ぽつぽつ、ざあざあ、しとしと、ばしゃばしゃ。
雨のにおいがする。
草のにおい、ぽわんとした、そんなにおい。


雨の日のセックスは好きだ。
ぽつぽつ、ざあざあ、しとしと、ぴちゃぴちゃ。
雨の音のリズムが、思考をトリップさせる。
ぽつぽつ、ざあざあ、しとしと、ばしゃばしゃ。
窓を開けて、声を潜めて。
暗闇の中で、私たちは抱き合うのだ。


窓の外は雨。
雨の音がリズムを刻む。
ぽつぽつ、ざあざあ、しとしと、ばしゃばしゃ。

雨のにおいがする。
なんだかなつかしい、ぽわんとした、そんなにおい。



彼女は雨が好きだ。
それはもう、出会ったときからだ。
なんでそんなに雨がすきなの?そう何気なく話題を振った。

「なんでそんなに雨がすきなの?」
 そう言うと、彼女はくすと笑ってタバコに火をつけた。
 セックスの後にタバコを吸うなんて、ベッドの上でタバコに火をつけるなんて、私はあまり、好きではないのだけれど。
「火、危ない」
 そう言って一応注意してみると、ちゅっとほっぺにキスされてごまかされる。
 灰皿を引き寄せて、とんとん、とたばこを人差し指でノックする。
 ぽろぽろと、タバコの葉っぱが灰皿に落ちて、暗闇の中をぼうとたばこの灯りが浮かび上がる。
 そしてタバコをゆっくりと唇に運んで、彼女がぽつぽつと話を続ける。
 私は暗闇の中の、彼女の紅いくちびるを、じいっと眺めた。


「雨がずーっと続いたとき、そんでむしむししめってたとき、なんだかなーいやだなーって死にそうになるんだ。まいにちまいにち続くと、なんだか悲しくなって、毎年まいとし、この時期は死にたくなってたんだけど、」


 下を向いて歩くと、雨がじわじわとなんていうのかな、大地?
 大地にすいこまれていって、そしてふとね、まわりを見つめると、木が、花が、草が、カエルが、みんなうれしそうにしていてね、そうしてふとそらを見上げると、落ちてくる雨がなんだかとっても楽しそうなんだ。
 耳を済ませると、なんだかうるさくてむかむかしていた雨音が、よーく聞くと、声に聞こえるの。
 歌に聞こえるの。それに気づいたときに、なんか、涙が出てきてさ。


「そんで、生きてるってすてきだなあ!って」

そう言って、うふふと笑ってぷかりと煙を吐いた。
ゆらゆらと上っていくタバコの煙。
しろくしろく浮かび上がる煙は、すぐに暗闇に溶け込んで。

ふうと吐息が聞こえる。
その吐息とともに、またぷかりと浮かぶ、たばこの煙。

「それから、かわいい傘と長靴を買ってきた。長靴ってけっこうかわいいのいっぱいあるんだよ、カラフルだし、あと、カッパも買った」
「あのカッパ?」
「そう、あのカッパ」

 私と彼女が出会った日、それは雨の日で。
 雨の中、傘を持っているのにささないで、じいっとしゃがみこんでいた彼女。
 カラフルな水色のカッパを着て、緑色の長靴履いて、最初は何なんだろうこの人って思っていたのだけど。

「それから、この時期が来て死にそうになるたびに、あのカエルとか、花とか思い出してさ、生きてるってすてきだって思うようにしてるんだ」
そう言って彼女はぽつり、つぶやいた。
「あんたと出会ったのも、雨の日だったからね」
歌うように笑う、彼女の声を聞きながらわたしは窓から空をみあげた。



窓の外は雨。
ぽつぽつ、ざあざあ、しとしと、ばしゃばしゃ。

目を閉じる。
なるほどなんだか歌のように聞こえる。





ぽつぽつ、ざあざあ、しとしと、ばしゃばしゃ。



ゆらゆらとただようタバコの煙が、ふわふわとわたしをかこんで、ふわりと消えた。










おわり






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