**この広い、ひろい、世界には。**



この広い世界にはなんおくもなんぜんもなんびゃくにんも知らないひとがいて。




 そして、会うはずのないそのだれかにつながっている不思議。







 眠る前の静かな時間、
 今日も一日おつかれさま。
 ネットの海をさまよって、わたしは彼女のとなりにすべりこむ。
 彼女は本をよみながら、わたしの身体をひきよせる。


「……ブログ、とか読んでてさ」



 眠る前の習慣、だれかのブログとか、読んでてさ。
 いつもだきしめてあげられたらいいなあっていうひとがいて。
 会ったこともないし、会話をしたこともない。

 ただただ、わずかな情報と、そのひとの感性、それしか知らない。
 でもなんだか、いつも。だきしめてあげられたらなあって思うんだなあ。


 あたまを撫でてあげたいって思うんだ。


 それは決して恋愛感情ではなくて。
 親愛の感情なのだけれど、なんだろう、母性?

 
 そんな感じ。


 実際に触れて、肩を抱いてあたまを撫でてあげることはできないけれど、
 せめて、こころの中ではだきしめようと思うんだ。



 ぎゅってね。



「ねえねえ、ちょっとだけなら浮気じゃない?こういうこと思うってだめかなあ?」
 想うだけ、思うだけだよ?
 上目遣いにそう言って、かわいこぶって彼女を覗き込む。
 そうしたらすこしだけ間があって、彼女がぱたん、と本を閉じた。
「思うだけ、んならいいんでない? こころは自由、そうでしょう?
 恋愛感情じゃない、ってんならわたしはなにも言わないよ。
 それって、頻繁に会えない大事な友達を思う気持ちと同じようなものでしょう?
 だれかを大切に思う気持ちは、オンラインだって、オフラインだって、会ったことなくたって、会えなくたって、全部、ぜーんぶ、おんなじでしょう?」
 そう言ってにっこりほほえむわたしの彼女。
 なんてものわかりのいい彼女!
 わたしはちょっとうれしくなって、次の瞬間、ちょっとへこむ。
 ちょっとっていうか、かなり。たくさん。いっぱい。
 自分でも自分勝手だなあ、とは思うのだけれども。

「んーでもなあ、もしわたしがあなたにそう言われたら、ちょーやきもちやいちゃうなあ。あれ?ちょーって死語? っていうか、ねえ、ちょっとくらいやきもちやかない? ぜんぜん? まったく?」
 かわいこぶってちょっと拗ねてみると、あははと笑いながら肩を寄せてくる。
 ぎゅ、と抱きしめられ、わたしは彼女の腕の中。
「やきもち、焼いてほしいの?」
「ううん、ぜんぜん」
「うそだ。ほっぺがぷくーとふくらんでるよ。ほい、ぶー」
「ぶふー」
 ぱんぱんにほっぺに空気いっぱい。そんなわたしのほっぺを、彼女は片手でぶにっとつぶす。
「かわいい、かわいいよ。だいすき、だいすきだよ」
 そう耳元にささやく彼女の声。

 目を閉じる。
 そしてぎゅっと、こんどは自分から彼女をだきしめてみる。
 
 あのブログのあの子も、あのひとも、どこかでだれかにぎゅっとされていればいいのに。

 

 目を閉じて、深呼吸。
 頭の中で、見たこともない、会ったこともないあの子を、思い浮かべる。
 
 想像する。思いを馳せる。



 だれかわからない、しらない、あなたが。

 いつか、いつも、どこかで、どこでも、しあわせで、しあわせで、ありますように。

 抱きしめても、いいですか? だめですか?

 心の中で、抱きしめます。



 いつも、いつも、いつも、いつもあなたが、
 あなたが幸せで、しあわせで、ありますように。




 いつか、いつか、いつか、いつかあなたが、
 あなたが幸せに、しあわせに、なりますように。

 





「……ねえ、だれのこと考えてるの?」
「君のことだよって何うわっははは」
「ねえ、さっきのはさ、わたしのこといつも考えてるって前提だよ?」
「考えてる、かんがえてるよ」
「本当?」
「ほんとうだよ、大切な人はいつも、こころの中で」
「ぎゅってしてる?」
「ぎゅってしてる」



 恋人はもちろん!常にこころの中で想ってる。ぎゅってしてるし、なでなでもしてる。

 実際に触れて、さわって、ぎゅってして、なでなでして


 うん。まあその他にも自主規制。


 触れられない誰かには、わたしにかかわる、すべてのひとには、すこしばかりの愛を。
 大きな、愛を。
 せめて、せめて、祈らせてもらおう。



 「きょうもよくがんばったね、おつかれさま、またあしたね」
 「あいしてるよ、おやすみ、君の夢がみれたらいいな。またあしたね」




 目の前のあなたに、かけがえのない、愛を。
 見たことのないあなたに、ありったけの愛を。
 

 

 大丈夫だよ、だいじょうぶ。
 だきしめてるよ、だきしめさせてね。



 心のなかで繰り返しつぶやき祈り、わたしは今日も眠りにおちる。







 目の前のあなたに、かけがえのない、愛を。
 見たことのないあなたに、ありったけの愛を。
 

 



 いつも、いつも、いつも、いつもあなたが、
 あなたが幸せで、しあわせで、ありますように。

 いつか、いつか、いつか、いつかあなたが、
 あなたが幸せに、しあわせに、なりますように。




 



おわり




(2009/10/24)



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 最近、よくいろんなことを考えたり、思い出したりします。


 今、わたしはひどくしあわせだけれども、
 でもここまでくるのに、
 いままでの人生、ほんとうに、ほんとうに気が狂うような日々を経て、今ここに立っているなあと。


 そのときは本当に、この苦しみが永遠に続くように思われて、
 そしてこの世界で自分はひとりぼっちで孤独な戦いをしてるようでいて
 未来は常に不透明で、
 泣きたいけれど涙がでなくて
 息をするのもやっとで、
 でもまわりには笑顔で接しつつ、
 こころの中ではずぶずぶと暗い中をただよっていて、
 灯りなんか見えなくて、ずいぶんと暗い中、うろうろとさまよっていました。


 だれかわかってよ、たすけてよ、くるしいよ、と心の真ん中で叫んでいたのを思い出しました。


 自分を救えるのは、けっきょく自分で。
 自分を愛せるのも、けっきょく自分で、
 ひとを愛するためにも、ひとにやさしくするためにも、
 まいにちを笑ってすごすためにも、
 自分を愛して、自分にやさしくしなきゃ、
 自分をうけとめてあげなくちゃ、なにも、なにも、できないんだなと思いました。



 それに気付いたときに、ようやく光が見えて、そこから抜け出せた気がします。


 そっからむだにれっぽじ思考が身についたきがします。
 最初はむりやりでもいいんですよ。こじつけでもなんでもいいんですよ。

 あほなこと考えて、口角あげて、そしてわらっていればいいんです。


 そんで自分に余裕ができたら、ひろーいこころですべてをうけとめられるようになりました。
 ひとにやさしくできるようになりました。
 ひとを心から愛することができるようになりました。




 もしも、あなたが足元がふらついちゃったりしたら。
 もしも、あなたが、息するのもくるしいとしたら。
 もしも、あなたが、いつも泣いていたとしたら。


 自分を、責めないでください。
 ひとを、責めないでください。
 周りを、責めないでください。


 自分に、優しくしてください。
 自分を、大切にしてください。
 自分を、抱きしめてください。
 自分を、愛してください。



 つらいことやくるしいこと、かなしいことは、必ず、かならず癒されます。
 薄れていきます。


 あんな時期もあったなあと、そう思うときが必ずくるはず。



 どうかいつも前向きで。
 その出来事にかくされた意味を、出逢えた意味を、そこから知った感情を、
 そこから学んだいろんなことを、ちょっとだけ、前向きに、考えてみてくれたら、とてもうれしい。



 人生に無駄な出来事なんてないんです。

 きっと、絶対。
 必ず、かならず笑える日がくるから。



 わたしが保証します。



 こころの中の電池をゆっくりゆっくりと充電しましょう。


 そして充電完了したら、きっと世界は変わってみえるはず。




 それまでは、ゆっくり、ゆっくりでいいんです。


 そう、その調子、だいじょうぶ。だいじょうぶ。





 抱きしめていいですか? どうか、だきしめさせてください。





 みなさんが、あなたが、わたしが、こいびとが、わたしにかかわるこのすべてのひとが、



 どうぞ、どうぞ、幸せでありますように!



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