***おーほーりーなーあーいいっ***






「サンタさん、サンタさん、大きなおっぱいがほしいです」






それは無理だってもんだよベイビー。







  大真面目な顔をして、ずずいっと迫ってくるかわいいかわいいおとなりさん。
「えりちゃん降りておねーさん重くて窒息しそう」
「重いだなんてひっどおおおおい!」
  とかなんとか言って、きゃあきゃあはしゃぎながら布団越しにしがみついてくる。
 

  ここは私の部屋で。私はベッドの上で。彼女は私の上。
 朝もはよからサンタのコスプレをして、えーい!どーん!だなんていいながら襲い掛かってきた。
「今日は学校ないのかねー」
 やれやれとひとつため息をつき、そんなことを言いながら、上に乗ってる彼女をこちょこちょこちょ。
「今日は振り替え休日だよー、クリスマスだよねえねえおきてようっぎゃはっはは」
 けらけらと笑いながら身をよじり、なにやら楽しげに私の鼻を押してくる。
「クリスマスは明日だよー今日はイブだよ前夜祭。恋人たちが肉欲におぼれる日なんだから寝かせてよー」
 まったくもう若いってのは本当にうらやましくもありめんどくさくもある。っつうか寝かせろ。寝かせてくれ。
 しっしっと手のひらをひらひらさせて彼女を追いやる。それでも彼女は負けじと私の上に乗っかってくる。

「ブー。ぶたのはなー」
「あにすんのだこのくそがきー」
 ぐあーと奇声を発しながらがばりと彼女に抱きつく。嬉しそうに楽しそうにきゃあきゃあとはしゃぐ彼女を,私はぐいぐいと布団に押し込んだ。
「ほーおこちゃまの体温ってのは暖かいのー」
 思いっきり抱きついて、大きく深呼吸。
 お風呂でも入ってきたのか、石鹸のいい香り。
「お子ちゃまって言わないでよ」
 また夢の中に落ちそうな私を見て、不満げに口をとがらす。お子ちゃまなんて言わないで、そう彼女は言うけれど。
「お子ちゃまでしょお子ちゃま。小学生はお子ちゃま」
「来年から中学校だもん」
 ほーそうですかーとか言いながら、ぬくぬくと体温を感じる。やっぱり人肌ってのは暖かいもんだ。
「ぬくいのー」
「ぬくいとか言いながらお尻触んないでよー」
「げっへっへ。いーじゃないか減るもんじゃなし。ところでえりちゃん、こんな朝からどうしたの」
 さわさわと彼女のお尻の感触を堪能する。あーいい形。いい弾力。いい触感。にやにやと笑う私を心底嫌そうな顔をして彼女は見つめ、ため息とともに答えた。
「どうしたって…クリスマスだから」
「クリスマスじゃないってイブだって」
「クリスマスは好きな人と過ごすもんだってよっちゃんが」
 んー?なるほどー?好きな人と?
「ついでに恋人はサンタクロースだってウチのおかーさんが」
 ははあ?……こいびと?
「そんで恋人におっぱい揉んでもらうとおっきくなるってお兄ちゃんが」
 お兄ちゃんが……ってなんだって?!


 がばあと飛び起き正座をし、きょとんと私を見つめるえりちゃんをじいと見つめる。


「……えりちゃん、こちらへ正座しなさい」
 ぽん、と自分の向かいを軽く叩く。
「どしたのみっちゃん」
 彼女はじいっと私を見つめる。
 おーべいびーつぶらな瞳でみないでくださーい。

 誰だこの汚れなき純粋な乙女にわけのわからんことを吹き込んだのは。
 

 まわりの大人たちにあきれ果てながらも、頭の隅っこではちょっと悶々としてみたり。




 いーやーでーもーしーかーしー。






 汚れなき蕾を!
 秘めやかなる乙女の恥じらいを!



 私が!この私が!







「いやいやいやいやいやいやいや!」
「なんなのさっきからおかしいよ」




 ソウデスネ。




 こほんとひとつ、咳払い。
 さーてこの純粋なる乙女にはきよらかなる蕾には、まだつぼみのままでいてほしいという親心っていうことで、ここはちょっくらおねーさまがそのただれた教えを正さねばなるまいて。


「いいから、起きて、正座しなさい」
 何が起こるかわくわくと私をみつめる彼女をきっと睨んで私はさらに強く布団をたたく。
「おっぱい、揉んでくれるの?」
「このエロガキ!いーやーそーれーはーなーい」
「ちぇー、ナニソレー」
 とか何とかぶつぶつ言いながらしぶしぶとえりちゃんは私の目の前にちょこん、と正座する。
 よーしよしよしいい子だいい子。
 そういいながら頭をぐりぐりと撫でてやる。
 きゃーやめてーと言いながら、なんだかとっても嬉しそう。
 そんな様子を一通り眺めつつ、私は大きく息を吸った。

「ひとおーっつ、加藤家家訓!」
「?」
「ほら、後に続いて!」
「かとおーけ、かくん!」





「ひとおーっつ、おっぱいもんでとか、そんなことをいうなー!」
「おっぱいもんでとか、そんなことをいうなー!」



「ふたーっつ、誰にも彼にもそんなことをいうなー!」
「だれにもかれにもそんなことをいうなー!」



「みーっつ、お兄ちゃんの言うことは信じちゃいけませーん!」
「えーっ、なにそれなにそれー!」



「よーっつ、私は恋人じゃありませーん!」
「えーっ!やだやだうそだうそだー!」



 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらぽかすかぽかすか私を叩いて暴れるえりちゃんを、何とかかんとかなだめすかす。
 まったく周りの大人がロクでもないから、こんなふうに純真無邪気に素直に聞入れちゃうんだけしからんまったくけしからん。


 何がけしからんてそのコスプレだ。ミニスカだ。サンタクロースだふわふわだ。








「何を考えてそんなかっこしてきたの」
 そう言って彼女をぎらりと睨むと、彼女はニッコリ笑ってこうひとこと。


「そんなん、みっちゃんをものにするためにきまってるじゃん」
 と、そんなことを、のたまった。





 ああ、かみさまかみさま今日はイブ。


 
 恋人たちの性なる……日?
 
 



おわれ。





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