dadadadadadada   jan !


                              あたまの中がファンファーレ。









 さて衝撃の愛の告白から一夜明け。
 俺は何故かスガワラと手をつないで登校したりなんかしちゃったりしている。


何故だ?俺もよく分からない。



 昨日あの後あまりにもすごい剣幕でスガワラが怒るものだから、とりあえず平和を愛する俺としては必死に奴をなだめようと、奮闘したのだ。
 よく考えたら俺がここまでしてやることもないような気もしないでもないが、まあこうなってしまったものは仕方がない。深く考えることは止めにする。
 何故なら俺は平和を愛する男だから、こうやって毎朝一緒に手をつないで歩いてやることくらい、何てことはない。…気がするけど何だかやっぱりおかしい気もする。







 すごい剣幕で怒っているスガワラを一通りなだめた後で、昨日はこんなやりとりがあったのだ。






「と、とりあえずお友達からということで」
「何その無難な選択肢。俺はあんたが好きなの。意味分かる?いい加減意味分かってるよね?俺、そういうあいまいなのすっごく嫌。付き合うか付き合わないか選んでよ。俺、もうここまで来るのにすっごく悩んだんだから。あんたも悩んで悩んで悩んで俺のこと受け入れな」
「受け入れるのかよ!」
「だから友情なんていらないんだって。俺は高橋が好きなんだから、そんなの苦しいだけだし。それにホラ俺お年頃だし」
「お年頃って…」
「キスしたいし手えつないで歩きたいしおそろいのストラップとか携帯につけたいし」
「最初はともかく、その後は友達でもいけそうですが」
「…まーようするに、選んで。俺とつきあう可能性があるのかないのか、そこのところをはっきりさせてもらわないと」
「…あー、」

 男同士だからダメですー!とか言って終わりにすればよかったんだと思う。だけどその時の俺は何故か「男同士だから」という選択肢はなくて。ただ目の前のスガワラのことを凄い速さでチェックしていた。

 顔は…、まあまあ?身長は…、ちょっと低いか。170くらいだろうか?俺と並ぶと俺のほうが高いな。えっでもちょっとそれって俺のがごついみたいで何だかあれじゃない?でもな〜、俺、色白に弱いんだよね。こいつ色素薄い…なんだか外国人みたいだ…ていうかちょっと入ってるかも?

 外見なんてうわべだけのことだ。大事なのは中身。もしつきあうとなれば、性格があうかあわないかはそりゃもう重要であるからして。(まあ外見にも一定のボーダーラインがあることは否定できないが。それをクリアしてから中身に入る。ようするにスガワラはまあまあ合格ラインだったということだ)
 総合的に判断するには俺には情報が足りなすぎる。
 
「…スガワラ、でも俺、お前のこと何も知らない。付き合うにしろ付き合わないにしろ、その判断は相手のことをよく知ってから下すべきだと思うんだ。お前だって俺の何がきっかけで俺を好きになったんだ?俺はいまいちそこがよく分からん」
「きっかけ?それなら一目ぼれだよ。」
 間髪いれずにスガワラが、さらりととんでもないことを言う。
「最初は一目ぼれ。それから、いろいろ。というか、やっぱりひとことでは言い表せないよ。うーん、何ていうか恋心ってのは、いろいろ複雑な要素が合わさってだねえ…」
「いろいろ?」
 というか一目ぼれ?俺に?コイツが?
 俺の、どこに?
 思いもかけない言葉に俺は動揺する。俺は自慢じゃないが一目ぼれされるような容貌でもない。ごくありふれたマッチョで、ごくありふれたむさくるしい体育会系の男だ。一目ぼれだって?
「ありえない」
 思わず、口をついて声が出た。
 ありえないだろ、普通に、それは。
「ありえなくないよ」
 スガワラがうっとりしたような声色でそう呟く。見つめてくる。真剣だ。怯むな。目をそらすな、俺。
「冗談だろう」
「冗談じゃないよ」
「本気じゃないんだろう」
「本気だよ」
「お前…、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。そっちこそ大丈夫?」
 そう言ってスガワラは首をかしげてにこりと笑う。
「俺は、高橋が好きだよ。本当に好きだよ」
 一言、一言ゆっくりと、強調するようにスガワラが言う。
「……嘘だ」
「嘘じゃないって。ていうか俺さ」
 今、本当に緊張しているんだよ。そう言って手のひらを俺の手に押し付けて、包み込む。手を握られた。ちきしょう、何なんだ。何なんだ、こいつ。
「ほら、すごく汗かいてるだろ」
「……本当だ」
 そう言って顔をしかめてやったら、だろ?と笑って、スガワラが頷いた。しっとりと汗ばんだ手のひらが離れる。
 ああ、そうか。スガワラは本気なんだ。少なくとも、嘘ではないんだ。だって、手のひらが震えていた。ついでに、唇も。微かに。でも。
「でも、スガワラ」
「何?」
「俺はやっぱりわからないよ。だって俺、お前と話したのは今日が初めてだし、ゆっくりこんな風にお前と喋るのも初めてだし。お前は俺を前からみていたというけれど、俺はまじまじとお前を見るのも今日が初めてなんだ。」
「うん」
「だから、俺はすぐには結論は出せない。もしかしたらお前のことを気に入るかもしれないし、気に入らないかもしれない。それにお前、俺の好きなところは一言では表せないと言ってたけど、でもやっぱり俺はそれ、聞いてみたい。」
 こんな俺のどこを好きになってくれたのか。それは、やっぱり気になるわけで。
 スガワラが沈黙する。俺は沈黙に負けまいと奴を睨みつける。見れば見るほどますます謎だ。どうしてこんな普通のヤツが、俺のような熊男に一目ぼれなんかするのだろう。

「…ようするに、可能性はあるんだ?」
 スガワラは掠れたような声を出す。目が少しだけ潤んでいる。泣きそうになっているんじゃないか、そんなことをぼんやりと思った。
「まあ…、そういうことに、なるのかな。」
 つられて俺まで泣きそうになる。よく分からないけれど、何だか声も裏返ってしまった。
 スガワラはまたしばらく黙って、そして大きくため息をつく。もしかしたら深呼吸をしたのかもしれない。ひっひっふー。心の中で掛け声をかけた。
「オーケイわかった。じゃあ友達からはじめよう。ただし、期限ははっきりとつけて。俺が気に入ったのならつきあってくれればいいし、気に入らなかったり、やっぱり男はダメだったら容赦なく振ってくれ。そうしないと立ち直れないし次へいけない。何回も言うけど、俺はお前との友情はいらない」
「…、そういえば、俺たち男同士だったな」
 はたと気づいた。そういえば今まであんまり気にしていなかった。ていうかちょっと忘れていた。もしかして重大な事柄を俺は忘れていたんじゃないか。
「そうだよ、だから言ったんだろ?男でもいいのかだめなのかはっきりして欲しいって」
 何を今更、といった顔で見つめられる。なんとなく頬が熱くなる。もしかしてこれはとりかえしのつかない事態になっているのではないだろうか?
「…あー」
 俺は今更ながらに顔を顰める。やばい。なんだか本当に顔が熱くなってきた。今絶対赤面しているに違いない。目の前でスガワラが笑う。きっと俺の顔がみるみる赤くなっていくのを観察していたんだろう。クソ、何だか俺、かっこ悪い。
「ま、可能性があるんなら、俺はそれにかけるけどね。もうこの話しはおしまい。これからはミッチーとはるちゃんと呼び合おう。それがいいそれがいい。明日から俺、はるちゃんのこと朝迎えに行くね。そんで手をつないで登校しようそうしようそうしよう」
「何でそうなるんだというかミッチーとはるちゃんて何だ。ていうか手をつないで登校?!いくらなんでもそれは早すぎないか俺たち」
「早くないよ。だっておつきあいを前提とした友達つきあいですよ?手えくらいにぎらせてくれたっていいじゃんケチ。俺の名前間違ってたくせに」
「それ俺が悪いのか」
「はるちゃんが悪い」
 そう言って、おどけたように肩をすくめる。じゃ、これ俺の携帯の番号とメールアドレスね。そう言いながらスガワラはごそごそと制服のポケットをまさぐり、くしゃくしゃになった紙切れを差し出してきた。
 俺はなんともいえない気持ちになりながらもその紙切れを受け取る。本当に…本当にこれでよかったんだろうか。
「ああ、そう、それから」
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、嬉しくて仕方がないといった顔でスガワラが笑った。
「何」
「はるちゃんは、俺とは友達として付き合ってもいいけれど。…俺は恋人として振舞うからね」
「はあ?」
「だから言ったろ?俺ははるちゃんと友情ゴッコするつもりはないんだって。ああでも大丈夫。いきなり襲ったりとかしないから。それは正式につきあってからということで」
「な」
「まーでも、手をつないで一緒に登校するくらいはいいでしょ?少しは俺に夢見させてよ」
 なんと言っていいか分からないで呆然としている俺に、スガワラは笑って肩をたたいて。


「明日から、よろしくね。はるちゃん」

 そう言って、その場から駆け出していった。

 俺はといえば、今更ながらにとんでもないことを約束させられたような気がして目の前が真っ暗になり、その場にへなへなとうずくまってしまった。
 これは夢?いやさ幻?
 普段モテない男がたまにこういったことに遭遇すると判断能力が鈍ってしまう。ずるずるずるずると流されて、そしてその先にはアナザーワールドだ。そしてもっとタチが悪いことに、そんなに嫌でもなくて、むしろわくわくしている自分が居る。
 でも、明日になったら何事もないんじゃないだろうか。好きだといってくれた存在も、なにもかも、なかったことになっているんじゃないか。そう思いながら帰路に着いた。家について夕飯を食べ、風呂に入り、就寝する。それは全くいつもの日常と嫌になるくらい同じで。
 朝起きてからは昨日のことはすっかり忘れていた。が、しかし。



 次の日玄関の扉を開けると、そこには公約どおりに俺を待っていたスガワラが居て。「さあ行こうかお姫様」なんて言って手のひらを差し出してきたのだった。
 お姫様だなんて何言ってんのコイツ、とちょっぴり引いたりもしたのだが。

「今日は本当にはるちゃんが出てくるまで、緊張して死にそうだったんだよ」
 なんて言って嬉しそうに笑うスガワラの手のひらが、体温が高い俺にとってはほんのり心地よい冷たさで。



 手をつないでいてなんとなく嬉しかったのは、スガワラには内緒だ。








 

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2007/3/26



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